ハンドルネーム「ASHA」を名乗り、ネットに音源を発表する。
それが少女にとって唯一の世界との交信方法。
少女の名は、二ノ宮綾。
軋む心を外界に表現する術を他に知らない綾は、今日も只一心にケーブルのパッチを繋ぎかえる。
混線するチャンネルから偶然に綾の発信する音を受信した利根川康司。
壊れた機材を棄てるために訪れた廃材置き場で、綾と利根川は偶然に出会う。
使用されなくなった巨大魚の観測所を溜まり場とする利根川達と少しずつ親交を深めていく綾。
時を同じくして観測が放棄されて久しい巨大魚、滝夜叉丸の体調が著しく悪化していることを悟る一同。
観測所を溜まり場にすることで遠ざけていたはずの各々の問題も再び形をとり始める。
綾は初めて自らの音響技術を自分以外の人間に使おうと決意する。
崩壊していく共同体、その最後の一時、巨大魚の鳴き声によって呼び起こされるという虹の再現を目指し
綾は滝夜叉丸の鳴き声をシンセサイザーで再現し投げかける。
巨大魚の鳴き声が反響する湖のほとり、虹の橋の下、夢の記憶が蘇る時、綾は初めての感情を覚えた。